
まず押さえたい地震の要点
- 現行の耐震基準(新耐震基準)は1981年6月1日に施行され、木造住宅については2000年にさらに強化されました。
- 建物の地震対策は、耐震・制震・免震の3つの方式に大別されます。
- 2000年施行の住宅品質確保促進法(品確法)により耐震等級1〜3が導入され、等級3は法定の最低基準の1.5倍の耐震性を備えます。
- 国土交通省によると、住宅の耐震化率は2008年の79%から、2023年には約90%に向上しました。
- 2025年9月、政府の地震調査委員会は、南海トラフ巨大地震が今後30年以内に発生する確率を「60%〜94.5%以上」に見直しました。
- 2025年4月の建築基準法改正では、すべての新築建物に省エネ基準が追加されました。これは現行制度における直近の改正です。
東京で住まいを購入するとき、地震はなぜ耐震性が重要なのか

東京の物件を検討する際、多くのお客様が最初に確認するのは耐震性です。これは当然のことです。なぜなら、耐震性は建物の寿命と安全性に直結するからです。
いうまでもなく、日本は地震の活動が活発な地域です。そのため、長年にわたって高い水準の耐震性を備えた建物が建設されてきました。
その背景には、大地震のたびに見直されてきた建築基準法、新築のすべてに完了検査を求める制度、そして耐震設計を建築の中核に据えてきた技術の蓄積があります。現代の東京のマンションは、強い地震でも倒壊しにくいだけでなく、居住者の安全を守り、地震後も建物を使い続けられることを目指して設計されているといえます。
お客様にとって実務上の論点は、その物件が具体的にどの基準を満たしているか、という点に尽きます。現行基準で建てられた新しいタワーマンションは、住まいとして高い安全性を備えています。一方、築年数の経った建物も、適切に耐震診断がなされ、必要に応じて補強されていれば、安全な場合がございます。本ガイドでは、耐震基準の変遷、3つの設計方式、そして確認すべき書類を整理し、その判断を自信を持って行っていただけるよう解説します。
耐震・制震・免震 ― 3つの設計方式
日本の建物の地震対策は、大きく3つに分けられます。物件情報や検査報告書に頻出する用語ですので、それぞれの違いを整理しておきましょう。

耐震 ― 基本となる方式です。壁・柱・梁を強固にし、揺れに耐えて倒壊を防ぎます。日本のすべての建物は、建築基準法が定める耐震基準を最低限満たす必要があります。人命を守る一方で、室内の損傷までは必ずしも防げません。
制震 ― 構造内にダンパー(揺れを吸収する装置)を組み込む方式です。ダンパーが地震エネルギーを吸収し、建物の揺れを抑えます。中高層マンションや、現代の東京の高層建築の多くで採用されています。
免震 ― ゴム製の支承(アイソレーター)やすべり材で建物を地盤から切り離す方式です。地震の揺れの大半を装置が吸収してから建物に伝わるため、揺れが最も穏やかになります。病院・美術館・高級レジデンスなどで採用されますが、費用が最も高く、象徴的なプロジェクトに用いられる傾向があります
要約すると、耐震は構造を守り、制震は揺れを抑え、免震は揺れをほぼ遮断する、という違いになります。
耐震基準の変遷
日本の建築基準法は、大地震のたびに幾度も改正され、そのつど基準が引き上げられてきました。建物の建築時期は、その設計の考え方を知る大きな手がかりになります。
| 年 | 主な出来事・改正 | 変更点 |
|---|---|---|
| 1950 | 建築基準法 制定 | 日本で初めての全国的な建築基準 |
| 1971 | 十勝沖地震後の改正 | 鉄筋コンクリート柱に関する基準を強化 |
| 1981 | 新耐震基準 | 震度6〜7の地震でも倒壊しない設計を義務化 |
| 2000 | 住宅品質確保促進法(品確法) | 木造の基準を見直し、耐震等級1〜3を導入 |
| 2025 | 建築基準法改正 | すべての新築に省エネ基準を追加 |
建築時期別に見た倒壊率(熊本地震の調査より)
この違いは、書類上のものにとどまりません。2016年の熊本地震では、被害が集中した益城町中心部の木造建築物について、建築時期別の倒壊率が調査されており、耐震基準の違いが被害の差にどう表れたかが、はっきりと確認できます。
| 建築時期(木造・益城町中心部) | 該当する耐震基準 | 倒壊・崩壊率 |
|---|---|---|
| 1981年5月以前 | 旧耐震基準 | 約28%(214棟) |
| 1981年6月〜2000年5月 | 新耐震基準 | 約9%(76棟) |
| 2000年6月以降 | 2000年基準(現行) | 約2%(7棟 |
| うち耐震等級3の住宅 | 品確法・耐震等級3 | 0%(16棟中 倒壊なし) |
出典:国土交通省「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書(2016年)、益城町中心部の木造建築物の悉皆調査より。なお、上表は木造建築物の数値です。同調査では、鉄筋コンクリート造については新耐震基準以降で倒壊が確認された事例はなかったとされています。
最も重要な節目が1981年6月1日です。建築確認済証の日付がこの日以降の建物は新耐震基準、それ以前は旧耐震基準と呼ばれ、上表のとおり被害状況に大きな差が生じました。次の節目が2000年の改正で、木造住宅を対象に、連続した鉄筋コンクリートの布基礎や、主要な接合部への金物の使用が義務づけられました。あわせて住宅性能表示制度が導入され、認定を受けた住宅には耐震等級1〜3が付与されます。等級1は法定の基本基準を満たすもの、等級2はその1.25倍、等級3は1.5倍の強度を示します。益城町の調査でも、耐震等級3の住宅に倒壊はありませんでした。学校や病院など避難所として使われる建物には、等級2以上が求められます。
直近の改正は2025年4月に施行されました。日本の2050年カーボンニュートラル目標の一環として、すべての新築の住宅・非住宅に対し省エネ基準が強化されたものです。耐震に関する要件そのものが緩和されたわけではなく、これを支える適合制度も維持されています。
東京の物件が現行基準を満たしているかを確認する方法

東京で物件をご覧になる際、確認しておきたい書類は5つあります。
- 建築確認済証 ― 建築計画が承認された日付を示すものです。日付が1981年6月1日以降であれば、新耐震基準で設計されています。マンションの場合、1981〜1983年竣工の物件にはご注意ください。旧基準で確認を受け、新基準の施行後に完成しているケースがあります。
- 検査済証 ― 完成した建物が検査を受け、承認された計画どおりであることを確認する書類です。
- 住宅性能評価書 ― 任意の制度ですが、新しいマンションでは取得が増えています。耐震等級が記載されています。
- 耐震診断書 ― 1981年より前の建物では必ず確認すべき書類です。構造が診断済みか、また補強されているかがわかります。
- 建物の構造種別 ― 鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)、鉄骨造は、同年代の木造より高い性能を示す傾向があります。不動産の販売図面)、賃貸借契約書(または重要事項説明書)、および建物の登記事項証明書(登記簿副本)に記載されていますので確認してみましょう。
建築時期ごとに、購入者が知っておきたいこと

1981年より前(旧耐震) ― 旧基準で設計された建物です。補強されていれば十分に安全な場合もございますが、最新の耐震診断なしに購入されることはおすすめしません。都心の旧耐震マンションの中には、全面的な補強を終え、それを証する書類を備えた物件もあれば、そうでない物件もあります。住宅ローンの融資機関や地震保険は、この両者を大きく異なる扱いとします。
1981〜2000年(新耐震) ― 新耐震基準で設計され、現行法上は耐震性を備えた建物とされます。ただし、この時期の木造住宅は一部例外で、2000年以降に標準となった接合金物や基礎の仕様を備えていない場合があります。
2000年以降(現行基準) ― 2000年の木造強化や住宅性能表示制度を含む、最新の基準で建てられた建物です。この区分の現代的な東京のマンションでは、基本の耐震に加え、制震または免震技術が用いられているのが一般的です。
築古の東京の建物は、どのように耐震補強されるのか

旧耐震の建物が、必ずしも避けるべき物件というわけではありません。この30年ほどで、既存建物を現代の耐震性能まで引き上げる補強工法が発達し、都心のマンションや戸建ての多くがすでに補強を終えています。工事の内容を知っておくと、耐震診断書を読み解き、適切に補強された物件かどうかを判断しやすくなります。
代表的な工法は4つあり、しばしば組み合わせて用いられます。
鉄骨ブレースによる内部補強 ― 既存構造の内側に斜めの鉄骨ブレースや耐力壁を加え、水平方向の変形に対して剛性を高めます。中高層のコンクリート造マンションで最も一般的な工法で、居住しながら工事できるよう、通常はフロアごとに進められます。
外付け鉄骨フレーム ― 内部工事が難しい建物では、外壁側に鉄骨フレームを付加します。フレームが既存構造と一体となって地震力を分担します。築古のオフィスビルなどで、外部に鉄骨の格子が見えるものがそれにあたります。
ダンパーの後付け ― 新築で使われるものと同じ制振ダンパーを既存建物に設置し、揺れを抑えます。補強工事では、オイルダンパーや粘性壁ダンパーが多く用いられます。
免震化改修 ― 最も大規模な工法です。建物を基礎から切り離し、下部にゴム製の免震装置を設置したうえで、新しい基礎の上に建物を据え直します。費用がかさみ、工事の負担も大きいものの、最も高い耐震性能が得られるため、象徴的な建物や一部の病院で採用されています。
木造住宅の補強は、主に接合部と基礎が対象となります。隅角部や梁と柱の接合部に金物を追加し、独立基礎を連続した鉄筋コンクリートの布基礎に置き換え、主要な壁を構造用合板で補強する、といった内容です。いずれも、2000年の改正で新築に義務づけられたものと同じ仕様です。
費用は建物や工法によって大きく異なりますが、公的な支援制度が用意されています。多くの区で耐震診断や耐震改修工事への補助が設けられており、要件を満たす場合には所得税の控除を受けられることもあります。特定の物件がこうした制度を利用しているか、また工事を証する書類が残っているかは、経験豊富なエージェントであれば確認のお手伝いができます。
東京の高層建築に見る、最新の耐震技術
東京のスカイラインは、いわば耐震工学の実物の展示場です。現代のタワーが大地震で安全を保つ仕組みを理解するには、ダンパーの役割を知るとわかりやすくなります。ダンパーとは、地震の運動エネルギーを別のかたち(多くは熱)に変換して逃がす装置です。オイルダンパーは小さな開口部を通る流体の抵抗を利用し、粘性壁ダンパーは同じ原理をより大きな規模で働かせます。マスダンパーは、高層建物の上部に重りを設け、揺れと逆方向に動かすことで揺れを打ち消します。いずれも、地震エネルギーに正面から抗うのではなく、吸収するという考え方です。
東京の2つの構造物が、この技術の到達点を示しています
東京スカイツリー

2012年に完成した東京スカイツリーは、千年来の発想を取り入れています。高さ634mと日本一高い構造物で、その設計は、伝統的な五重塔の中心を貫く心柱に着想を得ています。心柱は、日本の木造寺院が幾世紀もの地震を耐え抜いてきた要でした。スカイツリーも同じ原理を用い、鉄筋コンクリート製の心柱がタワー内部を貫き、外周の鉄骨とオイルダンパーで結ばれています。地震時に心柱と外周が少しずつ異なる動きをし、その差をダンパーが吸収します。
さらに、厚さ約1.4mのゴム系の基礎の上に建ち、タワー全体が損傷なくしなる構造となっています。技術者の試算では、建物に達する地震エネルギーの約半分を吸収するとされています。
麻布台ヒルズ 森JPタワー

2023年に完成した麻布台ヒルズの森JPタワーは、異なる組み合わせを採用しています。日本一の高さを誇るこの建物は、上部のマスダンパー、構造全体に配したオイルダンパー、そして低層部のアンボンドブレースダンパーを用います。それぞれが地震動に対する建物の応答の異なる部分に働きかけ、揺れを抑え、大地震時に構造を守ります。
東京の多くの高級マンションは、この2つの中間に位置します。鉄筋コンクリートの躯体、ダンパー、場合によっては免震を組み合わせています。仕様は建物ごとに異なり、だからこそ、デベロッパーに関する一般的な説明よりも、住宅性能評価書のほうが重要になるのです。
地震保険と、2026年時点の公的支援

日本の地震保険は、政府が再保険を引き受ける官民一体の制度で、火災保険に付帯するかたちで加入します。保険料は、都道府県・建物構造・建築年によって決まります。より高い耐震基準を満たす建物は、建築年割引・耐震等級割引・免震建築物割引・耐震診断割引の4種類の割引の対象となります。割引は1契約につき1つのみの適用ですが、都心のマンションを長く保有される場合、その差は小さくありません。
築古の建物については、複数の公的制度が補強を後押ししています。要件を満たす耐震改修工事には所得税の控除が用意されており、多くの自治体が診断・補強への助成を行っています。金額は区や市によって異なりますので、予算を組む前に、地元の役所へ直接ご確認いただくことをおすすめします。
国の政策の方向性も知っておく価値があります。国土交通省によると、住宅の耐震化率は2008年の79%から2023年には90%へと向上し、耐震性が不十分な住宅をおおむね解消するという目標時期は、2025年から2030年へと見直されました。傾向は明確で、安全性の不十分な住宅ストックは縮小しつつあり、公的制度もその方向を後押しするよう設計されています。
建物と緊急地震速報の連動
現代の東京の建物は、緊急地震速報と連動するよう設計されています。速報は、強い揺れが到達する数秒〜1分ほど前に発せられ、その間に建物側の自動的な安全動作が働きます。
現代のマンションでは、速報を受けて複数の動作が起動します。火災を防ぐためガスの元栓が遮断され、エレベーターは最寄り階に停止して扉を開き、閉じ込めを防ぎます。建物の管理システムは、続く揺れに備えます。多くの住宅には、被害が生じた際に作動する自動消火設備や非常照明も備わっています。建物単位の自動化と全国的な速報が組み合わさる点は、日本の都市で暮らす安心材料の一つといえます。
緊急地震速報の仕組み
日本では、地震に特化した緊急地震速報を気象庁が運用しています。Jアラートは、これに津波などの緊急情報も加えて自治体や住民へ伝える、より広範な全国瞬時警報システムです。仕組みは次のとおりです。
- 検知 ― 全国1,000か所以上の地震計が、地震の初期微動(速く伝わるP波)を捉えます。
- 解析 ― 気象庁のシステムが、破壊的な主要動(S波)の到達前に、震源・規模・予想震度を瞬時に推定します。
- 発表 ― 震度5弱以上の強い揺れが予想される場合、気象庁は数秒以内に緊急地震速報を発表します。
- Jアラートへの連携 ― 速報はJアラートを通じ、衛星経由で全国の自治体へ即時配信されます。
- 地域への伝達 ― 各自治体のシステムが、屋外スピーカー、テレビ・ラジオの割り込み、携帯電話のエリアメール(緊急速報メール)などを自動的に起動します。
- 人々の対応 ― 揺れの到達まで数秒〜1分の猶予が生まれ、身を守る、列車を止める、生産ラインを停止するなどの対応が可能になります。
- 自動制御 ― 新幹線は自動で減速・停止し、エレベーターは最寄り階に止まり、ガスの供給も遮断されます。
この一連の流れが数秒で進み、日常の背後で常時稼働しています。物件の所有者にとっての利点は、建物・交通網・手元のスマートフォンが、同じ瞬間に同じ信号を受けて動いているという点にあります。
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※ 本記事は建物の耐震性能に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別物件の安全性や、地震時の被害の有無を保証するものではありません